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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)13674号 判決 1970年2月27日

原告 笠原活世

右訴訟代理人弁護士 増田弘麿

被告 大掛ヨシエ

主文

一、被告は原告に対し別紙目録第二記載の建物南側亜鉛メッキ鋼板葺屋根のうち別紙(一)図面の青線をもって表示した部分内の亜鉛メッキ鋼板屋根を除去して、厚さ〇・二七粍のカラー鉄板屋根に張替えかつ右亜鉛メッキ鋼板屋根が別紙目録第一記載の建物北側壁面に接続して喰込んでいる部分(別紙(二)図青線表示の部分)を別紙(三)図面表示のとおり工事せよ。

二、被告は原告に対し金九六、一〇〇円およびこれに対する昭和四四年一月一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三、原告その余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は三分し、その一を原告、その二を被告の負担とする。

五、この判決は原告勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の申立

(一)  原告

(1)  第一次的請求

(イ) 被告は原告に対し被告所有別紙目録第二記載の建物(以下第二建物という。)南側亜鉛メッキ鋼板葺屋根のうち別紙(一)図面(以下(一)図という)の赤線を以て表示した部分内の亜鉛メッキ鋼板を除去して、厚さ〇・二五ないし〇・二八粍の鋼板に張替えるとともに、右屋根の亜鉛メッキ鋼板が原告所有別紙目録第一記載の建物(以下第一建物という。)北側および西側壁に接着して喰込んでいる部分(別紙(二)図面赤線表示の部分)を別紙図面(四)表示のとおり工事せよ。

(ロ) 被告は原告に対し金二四六、一〇〇円およびこれに対する昭和四四年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(ハ) 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言

(2)  予備的請求((イ)についてのみ)

第一次的請求(イ)が認められない場合は、右(イ)の「厚さ〇・二五粍ないし〇・二八粍の鋼板」に替えて、「厚さ〇・二七粍または〇・四粍のカラー鉄板」を使用して右(イ)同様に工事することの裁判を求める。

(二)  被告

第一次的請求、予備的請求を通じてすべて、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(一)  請求原因

(1)  第一建物は原告所有、第二建物は被告所有であり、その位置関係は別紙図面のとおりである。

(2)  原告は昭和三四年四月三〇日第一建物を現状のままで買受けたが、その当時一階六帖北側壁面に雨水の浸透はなかったが、三年位前から雨が降ると必ず浸透するようになった。

(3)  右雨水浸透の原因は第二建物の屋根の亜鉛メッキ鋼板の末端が第一建物の北側壁面に喰込んでおり、かつ右鋼板が腐蝕して小穴があり、また鋼板相互の接合個所が離剥しているためである。

(4)  左雨水浸透によって第一建物の一階北側六帖の壁面は汚損変色し改装工事を必要とするが、その工費には金四六、一〇〇円を要する。

(5)  原告は昭和四三年一〇月六日被告に対し屋根の修理方を要求したところ、被告は不当にもこれを拒否し続けており、一方原告は雨天の都度右六帖の畳をあげねばならず、更らに日日の天候も雨天にならぬよう案じて不安な日日を送っており、その精神的苦労は多大であり、その慰藉としては金二〇万円の支払いをもって相当とする。

(6)  よって所有権に基く妨害予防として第一次的には鋼板による張替工事、予備的にカラー鉄板による張替工事を求め、損害賠償として合計金二四六、一〇〇円の支払い並びに仮執行の宣言を求める。

(二)  被告の答弁

(1)  認める。

(2)  三年位前から雨水浸透は不知、その余は認める。

(3)  第二建物の屋根の亜鉛メッキ鋼板が第一建物北側壁面に喰込んでいることは認め、その余は不知。

(5)、(6)争う。

(三)  被告の主張および抗弁

(1)  第二建物はかつて訴外田中之が所有し被告が賃借していたものであるが、右田中が昭和三三年、被告が帰郷不在中第一建物を現状のとおり建築して原告に売却したものであり、第一、第二建物が現状のように接続して建在することは何ら被告の責任でない。従って右建築構造上の不都合に基く瑕疵はすべて右田中に責任追究をなすべきであるから、被告に対する本訴請求は失当である。

(2)  原告主張の雨水浸透の事実が存在するとすればその原因は、すべて原告側の責任である。

(イ) 第一建物建築以来昭和四三年八月頃までは、第一建物の二階の屋根に降った雨水は挙げて第二建物の屋根の(一)図赤線表示部分上に落下する如く樋が設置されていたため、同部分の亜鉛メッキ鋼板が腐蝕したのである。

(ロ) 昭和四三年一〇月頃第一建物に設備されていた右(イ)記載の樋が折損したので、原告方ではその修理をしたが、その際職人が(一)図赤線表示部分の亜鉛メッキ鋼板屋根を破損した。

(ハ) 以上(イ)、(ロ)が本件雨水浸透の原因であることは、右(ロ)以前には原告から被告に対し何ら雨漏りの話がなかったことによっても明らかであるから、被告は何らこれに対して責任はない。

(3)  仮りに本件雨水浸透につき被告に何らかの責任があるとしても右(1)、(2)に述べたとおり原告側にもその原因があるのであるから、これを顧みず一方的に被告に対して責任を追究することは権利の濫用である。

(4)  仮りに被告に責任があるとしても、鋼板をもって補修することを請求することは、被告所有の第二建物が建築後既に四〇年以上を経過している下等家屋であることを考慮すれば不経済も甚だしく、不当である。カラー鉄板を利用すれば僅少な費用によって充分修理しうるものである。

(四)  抗弁に対する原告の答弁

権利濫用の主張は否認する。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因(1)の事実、(2)の事実のうち三年位前から雨水が浸透する事実を除くその余の事実、(3)の事実のうち第二建物の屋根の亜鉛メッキ鋼板が第一建物北側壁面に喰込んでいる事実は当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫を綜合すると、昭和四〇年頃から雨が降ると第一建物北側六帖(以下単に六帖という。)壁面に雨水が浸透してきたこと、右雨水は柱をつたわり、壁の砂を落とし、畳に浸透し、昭和四三年頃からはその程度もひどくなり、その予防のため原告方では雨天の日は外出することも不可能となったこと、右雨水の浸透が繰返されたため原告方六帖の壁面は汚損変色し、天井板、天袋、地袋、畳なども雨水浸透の被害を被っていること、右雨水浸透の原因は、第二建物の屋根の亜鉛メッキ鋼板のうち、第一建物北側壁面に喰込んで接続している部分((一)図青線表示部分)、(以下係争部分という。)が経年的損傷のため破損腐蝕したため、該箇所から雨水が第一建物北側壁面に浸透したものであること、第一建物は建築後一二、三年、第二建物は建築後四〇年以上を各経過したものであること、がいずれも認められ(る。)≪証拠判断省略≫

そうすると原告は被告に対し第一建物につき雨水の浸透に基く将来における侵害を未然に防ぐための適当な措置を求める権利があるといわなければならない。

被告は雨水の浸透は現状の如く第一建物を建築したことによるものであるから被告の責任ではないというが、前認定のとおり雨水浸透の原因は亜鉛メッキ鋼板屋根の接続部分(係争部分)の経年的破損腐蝕に在ることが認められるから、被告の右主張は採用できない。

また、≪証拠省略≫によると被告主張(2)、(イ)、(ロ)、の樋の設置、補修状況は認めうるが、これらが雨水浸透の原因となっていることについては、これを認めるに足りる証拠なく、かえって右原因は前認定のとおりであることが認められるから、被告の(2)、(ハ)および(3)の各主張も採用することはできない。

三、そこで先ず将来における侵害を未然に防ぐための適当な措置の請求について検討する。

原告は第一次請求と予備的請求とに区分して、段階を付して異なる内容の補修工事を請求しているが、凡そ所有権妨害予防請求権の内容は、侵害の虞の原因を排除して侵害を未然に防ぐため相手方に適当な作為、不作為を請求するものであるから、右適当な作為として求める行為の内容につき、原告が資材、施工方法を具体的に特定して請求していても、裁判所は、原告が請求している措置の範囲のうちで、最も適当な資材、施工方法による措置を認定して命じうると解すべきである。

≪証拠省略≫を綜合すると、原告所有第一建物の北側六帖に対する雨水浸透を防止するためには、主文掲記の方法による工法に基く屋根の補修することが相当と認められ、右認定に反する証人柳下金次の証言および原、被告本人尋問の各結果は措信しえないから、被告は原告に対し右工法による妨害予防の設備を施す義務があるといわなければならない。

原告は第一次的に屋根葺材料として鋼板を使用する施工を請求しているが≪証拠省略≫によると、第二建物は既に建築後約四〇年を経過し、かつ下等材料による建築であり、耐用年数は既にほぼ経過していることが認められること、従って、かかる建物の屋根の補修に鋼板を使用することは適当とは認められないこと、厚さ〇・二七粍のカラー鉄板を屋根葺材料として使用した場合でも約三年ないし五年位は補修せずに使用しうべく、更らにその後においても適時適切な補修をすれば、その耐用年数を延長しうることが認められること、などを考慮し、主文掲記の限度による施工をもって相当と認める。

四、次ぎに原告の損害賠償請求について検討する。

前記二に記載の各証拠によれば同項において認定したとおり、原告方では昭和四〇年頃から雨が降ると第一建物北側一階六帖の壁面に雨水が浸透してきて、これが柱をつたわり、壁の砂を落とし、畳に浸透し、昭和四三年頃からはその程度もひどくなったこと、右雨水浸透が繰返されたため原告方六帖の壁面は汚損変色し、天井板、天袋、地袋、畳なども右雨水の浸透による被害を被っていること、原告方では昭和四三年頃以降は雨天の日は右雨水浸透による被害予防のため外出することが不可能となり、平常も天候を案じ雨天を恐れて不安の念を持ちつつ生活していること、右雨水浸透の原因が前認定のように第一建物の北側壁面と第二建物の亜鉛メッキ鋼板との接続部分(係争部分)の破損腐蝕に在るものと考えた原告が、再三に亘り被告に右破損腐蝕部分の補修を求めたにもかかわらず、被告は現在に至るまでその補修を実施していないこと、右被害部分の補修には金四六、一〇〇円の費用を要することが各認められ(る。)≪証拠判断省略≫

そして、被告が主張する(1)、(2)、(3)、の各主張事実については、前述のとおりこれを認めえないから、右各主張は採用することはできない。

そうすると、被告は第二建物の保存の瑕疵に基く、本件雨水の浸透による原告の損害を賠償する義務があるといわなければならない。

ところで、本件雨水浸透による原告の損害のうち、本件六帖の被害部分の補修には金四六、一〇〇円の費用を要すること前認定のとおりであり、また本件雨水浸透に基く原告の精神的苦痛の慰藉としては金五万円をもって相当と認める。

被告は過失相殺を主張するものとも解しうるが、その主張の基礎をなす被告主張(1)、(2)の各事実が本件雨水浸透の原因と認められない以上、右主張も採用できない。

そうすると被告は原告に対し合計金九六、一〇〇円およびこれに対する本件雨水浸透事実が発生した後である昭和四四年一月一日から右金額完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるといわなければならない。

よって右の限度で原告の本訴請求を肯認し、その余は失当として棄却し、訴訟費用は、民事訴訟法第八九条、第九二条を適用し、これを三分しその一を原告その二を被告の負担とし、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 安達昌彦)

<以下省略>

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